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染み付く
- Momoyo
- 2019年10月7日
- 読了時間: 2分
二十代の時にしていたことは、
頭に染み付くと思う。
私が二十歳から通っていた、
ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・
ミュージックという学校では、
金曜日の夕方五時になると、
秘書室の外の壁に新しい練習表が貼り出され、
その瞬間、家で練習できない哀れな生徒たちは、
次の週の月曜から金曜までの、
校舎のすべての練習室を
ペンで書き込んで予約できた。
朝の八時から夜の九時(だったかな)、
図書館前の狭い裏庭のプレハブ練習室から
二つの塔の中の各階に入っていた小さなオルガン練習室まで、
全部で50ほどあった練習室を
一日一人二時間まで予約できた。
タバコを吸いに行ってしまった生徒などが
お部屋を十分間以上留守にしたら、その部屋を
略奪することはできるけれど、
その金曜日の夕方に、ほぼ次の週の練習の出来が
確定してしまうので、みんな必死だった。
ロンドンでは、一年目は寄宿舎に入っていた私も含め、
練習が十分できる部屋に住んでいる人など
一握りだったから。
今学期から、自分の家の音楽室が
家族三人で取り合いになるのを防ぐために、
練習時間の予約表を用意した。
金曜日ではなく月曜日の朝、手帳を確認しながら
家族とその週の練習を書き込んで行くと、
懐かしさでいっぱいになる。
一度、ペンを忘れてカレッジの練習予定表に
鉛筆で書き込んだ金曜日、
月曜日の朝には誰かに消されて、
その週の練習が半分ぐらい奪われていたことを
思い出した。
練習の予約は人生の基本、と、頭に染み付いている。