背中
- Momoyo
- 2021年7月17日
- 読了時間: 4分

私はオルガンの生徒さんに頑張って憧れられようとしています。
こんなふうに弾けたらいいのにな。こんなふうにエネルギーがあればいいな。こんなふうに人生に肯定的ならいいな。。。
私も学生の頃、そんな先生方に憧れて、知らず知らずのうちに見習って目指すようになったと思うからです。いろいろな先生方がいましたが、どの先生も笑顔が最高でした。どの先生も一度音楽の中に入り込むと、弾いているのは生徒である私なのに、そんなことお構いなく、私の横で両手を振り回して音楽を「仕切り始め」、「指揮し」、私が弾いているはずのオルガンという大型車を「運転してしまう」のでした。私も先生も、汗びっしょりになって作品の最後にたどり着く。
特に、夏季講習会では「もうその日しかない」という気持ちで弾くので、夢のような無我夢中の体験をさせてもらって、その記憶は夏になるたびに暖かく胸の中に蘇るのです。
「ダメだね!それはダメだよ」
ということも容赦なく言われるのですが、要するに一度正しい場所にギアがはまると、もう、最後までその曲の道のりを辿ることができる、遠くに風景を見るような「解釈の雲が晴れた」体験と、旅先の街での素敵な風景が相まって、たったの数日かもしれないその先生という音楽家との関係性が、とても立体的に胸に刻まれる。
具体的なことでいうと、私が今、先生として生徒さんの前にいる時に気をつけていることは、ちゃんとその人の名を一時間のうちに3、4回発音しながら教えることです。
「ここはどういう指づかいにしてるの、xxさんは?」
みたいに、さりげなく「本人に、直に」声をかける。
それから聴講している生徒さんにも、30分に一回は
「どう思う、xxさんは、今のすごくよくなってたよね?」
など、「どう思ったか」を詳しく喋ってもらう時間は取れなくても、何らかの意思表示で参加をしてもらう。あるいは、ちょっと眠そうかな、なんて思ったら、私がめくるのではなく、もう一人の生徒さんが弾いているページをめくってもらったり、ストップを反対側出し入れしてもらったり。
そうして最後にレッスンを頑張った生徒さんをみんなが「よかったね」「一緒に手伝ったから上手くできたな」という気分になれる、それも私の教えたいことでもあります。
上手な生徒さんを先生が褒めて、上手でない生徒さんが疎外感を味わうのは、ごく普通のことなので、その辺りを乗り越えて、それぞれの問題点や良いところを「自分のことのように」見ることができたら、そして良い演奏を「みんなで大きい車に乗って一緒にたどり着いた場所」のように感じられたら、この、あまりに個性的なオルガニストという人々がどうしてこの日ここに集まったのか、その理由が肯定的になって、幸せかなと思う。
どうして「他所の人は上手くできるんだろう」という渇望する心は、音楽家にはなくてはならないもので、「嫉妬をするな」というのは無理だと私は感じています。
嫉妬するとエネルギーが出るので、自分の心が嫉妬に傾いたら「よしよしこれを使うぞー」と私はいつでも喜んでそれを迎えるようにしていました。
どんなに上手で威厳のある先生方でも、皆さん決してそういう心を失うことはないように見えるので、私は「嫉妬する人やだな、自分はしたくないな」なんて思ったとしても、嫉妬してない振りをして後でしわ寄せが来る方が怖いから、絶対無視しません。
ただ、あらゆることは「やり過ぎ」になった途端、健康ではなくなってしまいます。そんな時どうやって体を守るか。
「水を頻繁に飲む」
「ご飯を定時に食べる」
「長く座っていた後は、立ち上がってやや長めに歩く」
「寝る直前に音が大きすぎるレジストレーションにしない」
「少し心が休まるような内容の曲を最後に弾く」
「ちゃんと寝られるように気を配る」
耳が、落ち着けるかどうか。寝る前、ゆっくり喋る。レッスンの最後は30分の散歩。
レッスンの後、アルコールを摂らない。
音楽を一生懸命やりたければ、それを頑張る日はこれでなんとか体を守ることができます。
そうしていることで、私はとても健康に過ごせています、というのを見せるようにしています。見せびらかすというとおかしいですが、敢えて、ちゃんと食べてちゃんと水を飲んで、というところも包み隠さず生徒さんとシェアします。
私が大好きだった先生は、もう引退されましたが、ジムにも常に通っていました。
いつ見ても元気な、溌剌とした、年齢を全く感じさせない、素晴らしくて素敵な演奏家でした。大きな大きな背中を思い出して、弟子もまた、良い先生になろうと頑張る夏です。
皆さんもそんな体験はありますか。
先生の背中をふと、思い出すこと。
桃代
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