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最後のテーマ

  • 執筆者の写真: Momoyo
    Momoyo
  • 2021年7月27日
  • 読了時間: 4分

ブリュッセル大聖堂でオルガン・リサイタルを聴きました。演奏者はベルギーのベルナール・フォクロル氏。そしてプログラムは、バッハの「フーガの技法」でした!


「フーガの技法」という和訳が一般的ですが「フーガのアート」が直訳なので、「フーガの芸術」という感じで「これでもかっ!」と一つのテーマをひねくり回し、フーガにして、して、しまくって、100分間ずっとフーガ!というすごい作品です。


その、フーガの「テーマ」とは何か?皆さんは、音楽でテーマと言えば「耳につきやすいメロディーのことだよね!」とすぐに答えてくれると思います。その答えは半分正しい。なぜならば「耳につかないテーマ」もあるからです。


逆に「なぜテーマは耳につくのか?」というと、これはもう作曲家が「目立つように作ったから」としか答えようがありません。例えば、フーガは、絶対に出だしに来るのが「テーマ」です。前振りとかなく、イントロとかもなく。いきなり、フーガのテーマは来ます。


その間一つのメロディーしか、鳴りません!オルガンでもピアノでもオーケストラでも、どんな楽器編成でも、たった一人のあるいはたった一つの楽器(群)が一人で一つのメロディーを冒頭に奏でたらそれが「テーマ」です。


そのあとで、二つ目の楽器・二つ目の声部がそのテーマを5度か4度のインターバルで「返答」していく。その間、最初の楽器は止みません。だから段々、弾く人の人数が増えて、話している人の声の層が厚くなる会話のように、どんどん重なっていくのです。


フーガ以外の作品なら、テーマには他のどういう伴奏がついても問題ないのですが、フーガの中では、テーマさんはテーマさんとしか喋りたがりません。


フーガという作品の特別さはそこなのです。テーマをテーマで伴奏させていくだけで100分も普通なら演奏し続けるのは無理ですよね。すぐに同じ音の繰り返しになってしまう。音が合う伴奏で、尚且つ、毎回新鮮味のあることをいろいろやっていかなければ音楽作品になり得ない。そうするために、テーマが例えば「あいうえお」だったら、逆行して「おえういあ」にするなど、テーマの音一つ一つを材料に、いろいろな工夫をして変化をつけます。数字のように整然と並んだビーズのような音の並べ方を変えて、織物を織っていくかのような手法でバッハは「自分にできる限りのフーガの芸術」を、この生涯最後の作品に閉じ込めました。


私はこの作品は昔からいろいろなヴァージョンで聴いたことがあり(オルガンソロ、チェンバロソロ、弦楽四重奏、ピアノなどなど)、一部分は弾いたこともあって、知っている曲ではあったのですが、今夜フォクロール氏の演奏を聴きながら、フーガを上手に書くよというアートではなく、テーマを「七変化させる」アートの曲なんだなと感じました。


メイン・テーマは「とても風変わりなテーマ」です。少し上がって急激に下がり、なんだか不安そうな半音階になる。それがどんどん裏返されたり音程が上下鏡のように反転したり、聴いていると頭の中が大変な大騒ぎになってゆく。


バッハは1685年生まれで亡くなったのは1750年です。この14の「フーガ、あるいは対位法」からなる作品は1740年ごろから書き始めてられていたらしいです。そしてバッハの名前と関係する数字、第14のフーガの中盤で、いきなりテーマの「おしり」の部分の四つの半音階の音だけが、移調されて奏される。


シb、ラ、ド、シ。


ドイツ語読みの音名ではB・A・C・H。


バッハのテーマがメインテーマと絡まり合う中、「あっ、そういえばね、」と何かを言い出したかのようなフレーズの途中で、音は全て止んで、沈黙になるのです。



。。。。。。。。



そのことについての説明は、こんな小さいブログで説明しようとか、そういうお話ではなく、世界中の音楽人が論文を書いているようなことなのですが、私は今日は思った。


そこでバッハが息絶えて、惜しみながら悔しがりながらこの作品を書き終えられずに亡くなり、息子のCPEバッハが続きを書き足して完成させたんだ、とずっと思っていたけれど、それは違う。


これ、バッハが自分でここで書き終える、と自分で決めたのに違いない。


だってメインテーマからして、変だもの!


演奏会の後に会ったオルガン好きの人々に、そう話すとみんな「えーそんなことないだろ」と言いましたが。


自分の「白鳥の歌」にふさわしい、誰も考えないようなテーマ、作り、作品にしようと、あのバッハが考えないわけない気がする。

しませんか?

桃代


 
 
 

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